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人工内耳とお金|手術費用や装用後のランニングコストについて

kikoelife

人工内耳にかかる手術費用や装用後に必要となるランニングコストについてまとめました。

今回はコクレアのNucleus 7(ニュークレアス7=N7)という機種を例に説明しています。メーカーや機種によってランニングコスト(維持費)が異なる点もあるので、詳しくは手術を受ける病院の医師や言語聴覚士に確認してくださいね

人工内耳の構造

下記の動画でもわかる通り、人工内耳は体の外につける体外装置と、手術によって体の中に埋め込む体内装置に分けられます。

体外装置

体外装置(=サウンドプロセッサ)は、マイクで拾った音情報をデジタル信号に変換し、送信コイルを通して体内装置に信号を送る働きをします。

①のマグネットが頭皮を介して体内装置とくっつく

サウンドプロセッサは、耳掛け型とコイル一体型の2タイプがあります。コイル一体型は耳に掛ける部分やケーブルがありません。

耳かけ型のサウンドプロセッサ(Nucleus 7)
コイル一体型のサウンドプロセッサ(Nucleus Kanso2)

サウンドプロセッサのサイズは、下図の通りどんどん小型&軽量化しています。

小型化&性能の向上が年々進んでいる
N6とN7を比べると、送信コイルの厚みも薄くなってる

体内装置

体内装置(=インプラント)は、送信コイルから送られたデジタル信号を電気信号に変換し、その情報を蝸牛内に挿入された電極に送る働きをします。

コクレアの一番新しいインプラント「Profile Plusシリーズ」
蝸牛の中に電極を挿入した様子(http://www.kochi-u.ac.jp/kms/of_hsptl/jibi/index.htmより引用)

手術費用

人工内耳の埋め込み手術は平成6年4月から健康保険の対象になりました。また、高額療養費制度や各種の医療費助成を活用することで、自己負担金をさらに少なくすることができます。

費用の内訳

下記は人工内耳の機器にかかる費用です。人工内耳は医療機器(特定保険医療材料)として各機器の価格が決められています。

人工内耳の手術をする際、機器にかかる費用(インプラント+音声信号処理装置+ヘッドセット)は2,654,460円になります。これに併せて、手術費用や入院費用が別途必要となるため、医療費は総額400万円ほどになります。

この医療費に対し健康保険が適応され、さらに各種の医療費助成制度を活用することで自己負担金をさらに減らすことができます。差額ベッド代や証明書料など保険診療対象外の費用は実費負担になります[/chat]

利用できる医療費助成制度

高額療養費制度

医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月(1日から末日まで)で上限額を超えた場合にその超えた額を支給する制度。年齢や所得に応じて上限額は異なります。例えば、69歳以下で年収が370~770万円の方の場合、ひと月ごとの上限額(世帯ごと)は80,100円+(医療費-267,000円)×1%=117,430円となります。つまり、3割負担の方の場合、400万円のうち120万円が自己負担額になりますが、120万円-117,430円=1,082,570円は高額療養費として支給されるるため、実際に支払う額は117,430円となります。

「限度額適用認定証」の手続きを事前にしておくことで、窓口での支払いは自己負担限度額までの支払いになるので安心です。

重度心身障害者医療費助成制度

心身に障害がある方が保険証を使って病院を受診した際に、自己負担額について助成をする制度(所得制限あり)。対象者や助成内容は自治体ごとに異なりますが、聴覚障害の場合は身体障害者手帳の2級所持者が対象となる自治体が多いです。対象者には健康保険証とは別に医療証(通称「マル障」)が交付されます。

子ども医療費助成

対象児に医療証を交付して、通院や入院に係る費用を助成する制度。対象児の年齢や助成内容は各自治体によって異なります。

自立支援医療(育成医療)

18歳未満の身体に障害のある児童(身体障害者手帳の有無は問わない)、または治療を行わないと将来障害を残すと認められる疾患のある児童で、治療によって確実な治療効果が期待できると認められる場合に、指定自立支援医療機関での治療に対し、医療費の一部を助成する制度。世帯の市民税額に応じてひと月あたりの自己負担金に上限が決められています。

自立支援医療(更生医療)

身体障害者手帳の交付を受けている18歳以上の方が、医療を行うことにより障害を軽減あるいは機能の維持が保たれるなどの効果が期待できる場合に、指定自立支援医療機関での治療に対し、医療費の自己負担が原則1割になる(世帯の市民税額に応じてひと月あたりの自己負担金に上限あり)制度。

所得や年齢、住んでいる自治体などによって助成制度は異なります。詳しくは各自治体の障害福祉窓口に相談してくださいね

ランニングコスト(維持費)

体内に埋め込まれたインプラントは故障やトラブルなどがない限り半永久的に使用できますが、体外装置のサウンドプロセッサは定期的な部品の交換や場合によっては修理が必要になります。

初期セット

人工内耳の手術後、約10日前後でサウンドプロセッサを付けて初めて音を聞くことを音入れと言います。下図は音入れ時にもらう人工内耳の機器一覧です(この初期セット費用は上述した人工内耳手術費用にすでに含まれています)

成人も小児も同じセット内容ですが、小児の場合は下記の点が異なります。

健康保険が適応される機器

音声信号処理装置が故障し修理不能となった場合や、販売終了により部品交換ができない旧型機種の場合は、病院で処方を受けることで、音声信号処理装置+ヘッドセットの合計額1,004,460円に対し健康保険が適応されます。この場合も高額療養費制度や各種の医療費助成制度を利用することができます。

ただし、サウンドプロセッサの紛失やアップデート交換(自己都合で新しい機種に交換する)などの場合は、保険適応にならないため全額実費負担での購入になります。

現時点では”修理不能または部品交換不能の場合にのみ健康保険が適応される”状況ですが、人工内耳友の会ACITAでは、サウンドプロセッサのアップデート交換により社会生活および生活の質の向上などを含む総合的な治療効果が期待できると医師が判断し処方する場合には、「単なる機種の交換」ではなく健康保険が適応されるように様々な活動に取り組んでいます

ヘッドセット(送信コイル、送信ケーブル、マグネット)も個々の部品が破損した場合は健康保険適応のもと病院で処方を受けることができます。

N7の場合、②送信コイルと③送信ケーブルが一体になっているので、2つをあわせた合計額13,340円がケーブル付き送信コイルの価格になります。この価格から自己負担額分だけ支払います

破損した場合に「もう使わないから」とその器を捨ててしまうと保険による処方ができないので、必ず来院時に持参してください。また、病院に在庫がない場合もあるので、前もって病院側に連絡しておく方が安心です☺

消耗品

人工内耳の部品には定期的な交換が必要となる消耗品があります。これらは保険適応ではないため、メーカーから個人が実費で購入します。

初期セットに2パック入っている。汚れがたまると雑音などの原因になる

充電池は耐用年数を過ぎると、電池の減りが早くなったり、充電完了にかかる時間が長くなります。

初期セットにスタンダード充電池が2つ、コンパクト充電池が1つ入っているので、3つを交互に使用することで約3年ほどもちます。ただし、使用するプログラムやインプラントのタイプ、インプラントを覆う皮膚の厚さなどにより、電池寿命には個人差があります。

N7は充電池と空気電池のどちらも使用できる。Kansoは空気電池のみ

サウンドプロセッサの故障で一番多い原因が汗などの湿気です。湿気はバッテリー端子やケーブル等の金属部分を腐食させる原因にもなります。

通院費用

人工内耳は装用後すぐによく聞こえるようになるわけではなく、マッピング(パソコンを使って人工内耳の聞こえ方を調整する)に通いながら聞こえのリハビリを行う必要があります。

マッピングの間隔や頻度は個人によって異なりますが、医師による診察、聴力検査(装用時の効果をみる)、言語聴覚士によるマッピングなどに費用(いずれも健康保険適応)がかかります。また、病院までの交通費も別途必要になります。

その他

ロジャー(デジタルワイヤレス補聴援助システム)を人工内耳で使う場合は、各機種に応じたロジャーが必要です。

ロジャーは補装具費の支給対象として厚生労働省から認定されています。

http://www.techno-aids.or.jp/mhlw/08_150402.pdfより一部抜粋

特例補装具としてロジャーが支給されれば、1割の自己負担(所得制限あり)で購入することができます。ただし、ロジャーが特例補装具として支給されるかどうかは、各自治体によって差があるため、詳しくは各自治体の障害福祉窓口で相談してくださいね。

その他、水遊びや水泳を楽しめる防水カバー(アクアプラス)などもあります。

利用できる制度

人工内耳機器の交換や修理、買い替えする際などに利用できる制度がいくつかあります。

補装具費支給制度

補装具費支給制度とは、身体障害者手帳をお持ちの方が居住地の自治体に申請することで、補装具の購入や修理にかかる費用の助成を受けることができる制度(所得制限あり)です。

2020年4月から人工内耳の音声信号処理装置(コクレア:プロセッシングユニット、メドエル:コントロールユニット)の修理代が補装具費支給制度の対象になりました。この制度を利用することで、課税世帯の自己負担額は修理費用(上限30,000円)の1割負担、非課税世帯は負担なしで修理することができます。

補装具費の支給要件

支給を受けることができるのは下記の条件を満たした場合に限られます。

人工内耳音声信号処理装置はメーカーの保証期間外である

→保証期間内であれば修理費用は無料ですが、過失・故意・不適切な使用による故障や事故による故障は保証対象外です。その場合は補装具費支給制度の対象となります。

修理不能ではなく修理が可能である

→修理不能の場合は補装具費支給制度の対象外です。メーカーから「修理不能証明書」が送られてくるので、病院で処方を受けて新たにサウンドプロセッサを購入します。

人工内耳メーカーと提携する任意保険(動産保険)に加入していない

→動産保険に入っている場合は動産保険を優先する必要があります。

※修理対象は音声信号処理装置のみです。インプラント、ヘッドセット(送信ケーブル、送信コイル、マグネット)や充電池は対象外なので要注意です。

動産保険

動産保険とは、メーカーの製品保証ではカバーできない偶発的な事故による損害を補償する保険です。対象となるのは音声信号処理装置(コクレア:プロセッシングユニット、メドエル:コントロールユニット)です。

動産保険の年間保険料は、2021年10月時点でコクレア:40,000円、メドエル:18,870円~23,210円(機種によって異なる)です。自己負担額は、コクレアの場合は全損時は50,000円・修理時は5,000円(新規加入者や、継続加入者で装用期間が3年未満の場合は全損・修理の自己負担額はどちらも5,000円)、メドエルの場合は修理・全損どちらも0円です。

保険金が支払われる場合

盗難

◆破損(取り扱い不注意で壊してしまったなど)

◆火災・落雷、水濡れ(給排水設備の自己など)

◆破裂・爆発(ガス爆発など)

◆水災・風災・ひょう災・雪災(台風など)

◆建物の外部からの物体の落下・衝突など(家に車がぶつかってくるなど)

◆電気的機械的事故(ショートスパーク過電流など)

◆騒じょうまたは労働争議に伴う暴力や破壊行為  など

保険金が支払われない場合

故意または重大な過失、法令違反によって生じた損害

◆紛失、置き忘れによる破損

◆欠陥、自然の消耗、さび、変色、虫食いなどによる損害

◆地震、噴火、津波、戦争、暴動などによる損害

◆メーカーなどによる修理、清掃作業時に生じた損害

◆詐欺、横領による損害  など

補装具費支給制度では対象が修理可能な破損のみであるのに対し、動産保険では補償対象が広範囲に設定されています。

動産保険に入るかどうかは、装用者の年齢や生活状況などを踏まえて考えてくださいね。

各自治体による助成

電池やサウンドプロセッサの購入費用に対して、独自で助成を行っている自治体があります。お住いの自治体で助成がある場合は、ぜひ活用してくださいね!

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