インタビュー

難聴者のきこえを支える「認定補聴器技能者」|QOLの向上を目指して真摯に向き合っていきたい

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今回は、補聴器について気になること・疑問に感じることを、補聴器の専門資格である認定補聴器技能者の方にお話をお聞きしました。

教えていただいたのは、「ブルームヒアリング株式会社 ブルーム河原町店」で認定補聴器技能者として勤務されている鳥飼 恵さんです。鳥飼さんは現在、病院の補聴器外来を専門に担当されており、8軒の医療機関で多くの難聴者やそのご家族の方と関わっておられます。

補聴器の機能について

–補聴器は10万円弱~60万円以上するものまで様々な価格のものがありますが、価格の違いは何ですか?

鳥飼:雑音抑制、指向性マイク、ハウリング抑制は補聴器の中で基本的な機能です。デジタル補聴器のベーシックなものにもこれらの機能はついています。ハイグレードの機種になると、例えばアプリを操作することで前後左右に指向性マイクを向けることができます。ただし、上位の機種の場合でも、補聴器を片耳で使った場合はこの機能は使えません。両耳装用することで使える機能です。両方間でやりとりする機能はここ10年くらいで進んだ機能だと思います。

日本での普及価格帯は、大体10万円台前半~20万円弱くらいの機種が売れ筋です。両耳間でやり取りする機能が付いているものは、片耳で20万円以上のクラスになります。

風雑音抑制も両耳間での機能です。両耳間でSN比(SignalとNoiseの比)などをやり取りして、例えば右側の補聴器が風の影響を強く受けていると判断すると、右側の低音域の成分を少しカットします。そのカットした部分に、SN比の良い方の左側からコピーした低音成分をコピペします。つまり、風の影響を受けている方の低音成分を消してしまうと、風だけでなく音声情報も抜けてしまうので、SN比の良い方の低音成分をコピペすることで風の音だけを的確に抑えるという機能です。これは補聴器が考えて自動で行います。

その他にも、シグニアの補聴器には、OVP(OWN VOICE PROCESSING)という機能があります。「自分の声がこもる、響く」という訴えがあった時に、これまでは低音域を調整で下げたり、逆に高音強調にして低音成分よりも高音よりの音にして変わるかどうかを試したり、物理的な閉塞感に対しては小さいサイズの既成耳栓に変えたり、イヤモールドにベントを開けたり、少し緩めに修正したりして、低音を逃がすという方法で対処するのが基本ですが、OVPは自分の声を補聴器に記憶させて、自分の声だけを抑えるという機能です。

ただ、「自分の声がこもる」という訴えの方に過度に期待させてしまうこともあるので、この機能がない機種でも、ベントの調整をしたり、耳栓のサイズを少し変えたり、高音を少し利かせてあげたりして、改善することも当然ありますから、そのうえで色々試してみて、それでも訴えが変わらない場合は、こういう機能について説明したりします。

–はじめて補聴器を選ぶ方に対して、どのように説明されますか?

鳥飼:医療機関の補聴器外来によっては、医師の処方のもとベーシックな性能が備わっている補聴器でまずはやってみようというところもあります。補聴器店では機種が決まっているわけではないので、お客様の希望に沿うものから始めたりします。私の場合は、補聴器は性能が分かれているという説明をする流れで、価格帯の説明を必ずするようにしています。

ただ、「上のクラスの補聴器は必要ない」という言い方は絶対しないようにしています。逆に、「下のクラスで十分です」という言い方もしないようにしています。特に希望がなければ普及価格帯の機種で試すか、あとはお客様の訴え次第です。年齢などにもよりますが、主訴が職場などの悪条件下で困っている場合は、もちろん予算をお聞きした上で、真ん中のグレードから試したりします。そこで、両耳間機能が有効かどうかなどをみます。

普及価格帯の機種は、基本性能が備わっているので、静かな屋内で使ったり、テレビを見たり、決まった人と会話をするなどに関しては、上位機種と遜色なく使うことができます。カタログには補聴器を使うシーンごとに書かれていますが、何もついていないとそういう場面で使えないのかと思ってしまうかもしれません。例えば騒がしい場所での会話は、普及価格帯のところは何もついてないので、騒がしい場所では全く使えないのかというとそういうわけではありません。このあたりをきちんと説明するようにしています。例えが下手ですが、車でも自動ブレーキや駐車アシストなどの機能がありますが、それらは運転をアシストしてくれる機能です。ブレーキがついていない車や、ハンドルをきってバックできない車なんてないです。雑音を抑える機能も、騒がしい場所でちょっとそれを助けてくれる機能なので、それがあることで、その人の生活スタイルの中でどれくらい役に立つのかということを試してもらいます。

聴覚リハビリという面では、初めは「すごくしんどい」「不快だ」と思っていた音も、脳がだんだん順応してきます。なので、初めはどうやっても不快感しかなかった音が、当たり前になってくるという面があるので、そこができていないうちに色々補聴器選びに走ってしまうと、補聴器の本当の良さがわからなくなります。「上位機種には色んな機能がついてるからさぞ静かにきれいに聞こえるんだろう」と思いきや、そこで期待感ばかりが高まってしまい、「なんだ外に行ったらうるさいじゃないか」「こんなに車の音がするじゃないか」と感じてしまうことがあります。それはして当たり前なんですけれども、ほとんどが販売する側の責任になると思います。上位機種になるとまるで魔法の機械みたいな感じで説明してしまうと、期待値と満足度が乖離してしまい、なかなかうまくいかないことが多いです。

最近の補聴器メーカーのカタログには、「補聴器を使いこなすには」ということが書かれています。これは聴覚リハのことで、再び音が聞こえ出してから脳が慣れるまでには時間がかかります。写真で言うと、使用前は色がついていない状態。補聴器を使い始めた時は、対象と背景、音でいうと声と雑音になった時に、声と雑音が全部大きく入ってきてしまう状態。何が自分にとって必要な音なのかわからないという状況です。昔は、「毎日1~2時間つけて慣らしていきましょう」と説明することが多かったんですが、今は補聴器を使ったリハビリテーションという考えが浸透しているので、「とにかく毎日いろいろな場所で、できれば初めから常用しましょう」という考え方に変わってきています。

補聴器を使いこなせるようになっても、雑音が消えるわけではないですが、雑音は背景として存在していて、対象となる声はちゃんと中心で聞こえるという状況になります。補聴器の機能ばかりカタログに書いていると、「その機能がないとダメなんじゃないか」と、機種選びに走ってしまいがちになります。

–性能のよい補聴器を使ったとしても、どうしても難しい場面はありますか?

鳥飼:補聴器だけで使った場合は距離的な問題があって、大体1.5~2mくらいが補聴器の一番得意な範囲です。1.5~2mと言うと会話です。そこにピントを合わせていくので、それより離れた音になると、補聴器がない時よりは当然音としては入ってきますが、はっきり明瞭に聞くとなると難しくなります。健聴者の場合も、騒々しいところで会話をする際はなるべく近くで話したり、駅のホームで電話がかかってきた時は後ろを向いて片耳をふさいで電話をとったりしますが、少しでもいい条件を求めて工夫をしてるんですね。補聴器だけでは、どうしても距離的な面で難しいこともあります。

あとは、早口、滑舌、くぐもった声質など相手による部分があります。マスクなどで視覚情報がまったく使えないというのは、難聴者にとって本当につらいと思います。声もくぐもってしまうし、相手の表情も見えないし、耳しか頼れるものがなくなってしまいます。補聴器は基本的には、音を大きくして聞くことでどれだけ補助できるかというものなので、元の声次第なんです。

あとは環境です。騒音下もそうですし、反響しやすい場所も影響を受けます。例えば、床にカーペットがなかったり、カーテンではなくブラインドをつけている場所などは音が響きやすい環境なので、あちこちから遅れて音が届いてきます。

距離的な部分、相手による部分、騒音下と反響下というのは補聴器ではなかなか難しいところです。上位機種では反響抑制がついているものもあり、これは両耳ではなく片耳で使う場合でも使用できる機能です。データログでも使用環境がみえるので、どういう環境で使うかを必ず確認して、機種選定をする時に役立てています。

–補聴器と組み合わせて使うワイヤレス機器にはどのようなものがありますか?

鳥飼:各メーカーがメーカー補聴器専用のワイヤレスアクセサリーを作っていて、大体どのメーカーも似ています。これはシグニアの「ストリームラインテレビ」です。これ自体が送信機になっていて、対応するブルートゥース付き補聴器があれば、補聴器がヘッドセットのような役目になってテレビの音を直接補聴器で聞くことができます。

最近のテレビはほとんどの場合つなぐ部分があるので、家族も一緒に、普通の音量でテレビを見ることができます。つなぐ部分がない場合は、ヘッドホンジャックにさして使えるようになっています。ヘッドホンジャックにさすと音が消えてしまうメーカーもありますが、両方から出力できるテレビも多いです。

フォナックのロジャーセレクトもドッキングステーション(充電)に置いてテレビに差し込むことで、テレビの音を補聴器で直接聞くことができます。汎用の受信機やTコイルで使えるネックループもあるので、ロジャーは補聴器のメーカーを問わず使うことができます。

–どんな方がワイヤレス機器を買われますか?

鳥飼:テレビの視聴に関してはご高齢の方が圧倒的に多いです。iPhoneユーザーの方であれば、ブルートゥース機能付きの補聴器と中継器なしにダイレクト通話ができますが、Androidの場合、一部の機種はダイレクト通話ができないので、シグニアならストリームラインマイクをダイレクト通話のための中継器として選ぶ方もいます。

–ロジャーについて詳しく教えてください。

鳥飼:ロジャーは2.4GHz(ギガヘルツ)のデジタル処理された音声なので、すごくクリアです。ロジャーのマイク自体に雑音をデジタル制御する機能がついているので、うるさい場所で使う時は、他のメーカーのワイヤレスマイクよりもロジャーの方がクリアに聞こえると思います。ただ、音楽を聞くことに特化したイヤホンとは違い、あくまで補聴器なので、その人の聴力や聴力型に応じた状態で当然聞こえます。

ロジャーも各メーカーのワイヤレスマイクも、15~20mくらいまで届きます。FM波は30mくらいまで飛びます。見通しがいい場所だとそれ以上飛ぶそうです。ロジャーは音質はとてもクリアですが、デジタルの電波はFM波ほどは飛ばないそうです。

–ロジャーには色々な種類がありますが、それぞれの違いや使い方などについて教えてください。

鳥飼:主に、学校用か職場用(プライベートも)に分けることができます。タッチスクリーンマイクは集団補聴に特化しているので、学校用として使われています。職場やプライベートとなるとテーブルマイク、ロジャーセレクト、ロジャーオンが一般的です。

テーブルマイクは、大きな会議で席が離れていたり、席が分かれている時などでも、複数のロジャーを接続して使うことができます。同時に聞くのではなく、最初に拾った音声を優先して入れます。ロジャーセレクトは円卓でやるような会議で真ん中にポンっと置いて使います。ロジャーオンは最近出たばかりです。以前はロジャーペンというのがあったのですが、販売終了になり、そのあとにでたのがロジャーオンです。ロジャーオンは卓上モードだけでなくインタビューモードがあるので、相手に向けて使うことができます。ロジャーセレクトの場合は、卓上で使うか、相手につけてもらうかという使い方が基本になります。またセレクトの場合は、指向性の向きを変える時に直接触らないといけないのですが、ロジャーオンはアプリがあるので、アプリで指向性など操作することができます。一般ユーザー向けにはロジャーオンやロジャーセレクトが合ってるかなと思います。

ロジャーセレクトを胸元につけた様子

フォナックの現行機種には「ロジャーダイレクト」という機能がついているものがあります。受信機能が補聴器に内蔵されていて、販売店でインストールしてもらうと、受信機を補聴器につけたり、ネックループをさげる必要がなくなります。これはフォナックの補聴器限定の機能なので、フォナックユーザーは、よりロジャーが使いやすい設計になっています。

–最近はスマホと補聴器をつないで色々操作することができると聞きました。どんなことができるのか教えてください。

鳥飼:どのメーカーも基本的に、アプリを入れることでスマホを補聴器のリモコンとして使うことができます。ボリューム調節やプログラムの切り替えなどができます。上位機種になると、例えば指向性の角度や方向について、前にしたり、横にしたり、後ろにしたり、角度を絞ったり、広げたりなどがアプリで切り替えることができます。他にも補聴器の電池残量を調べたりできます。

操作方法もわかりやすい

メーカーによってはさらに色々できるものがあります。iPhoneユーザー向きが多いですが、GPS機能やジオタグ機能を使って、補聴器の場所を探ることもできます。また、使用環境に応じて自分好みにカスタマイズすることもできます。例えばうるさい場所に来た時に自分でボリュームを下げると、それを記憶させることができて、同じような場所に来た際に補聴器が自動でボリュームを下げてくれたりします。以前から補聴器自体にラーニング機能がついているものもありましたが、今はより具体的に「こういう場所に来たらこんな調節をする」など、どんどんカスタマイズできるようになっています。

今はベーシックなクラスからスマホ対応になっているので、リモコン機能はほとんどのクラスでできるようになっています。補聴器がどんどん小型化しているので、補聴器のみでの操作が非常に難しいんです。最近は充電タイプが主流になっており、電池ケースを省くことができる分、さらに小型化しているので、そこにボリュームやプログラムスイッチのボタンをつけても、小さ過ぎて高齢の方では操作が難しくなります。

スターキーのアプリはすごくて、転倒検知機能や、転倒した際に登録した連絡先に通知を自動送信する機能や、ヘルスケア機能などもあります。アプリで一番機能が多いのがスターキーです。

–充電タイプの補聴器が主流になってきているとのことですが、空気電池と比べて費用面ではどうですか?

鳥飼:シグニアについて言えば、充電器だけで4万4000円するんです。なので電池のもとがとれるとは言い切れないです。ただ、従来の空気電池タイプだと、電池寿命の問題が難しくなってきています。ブルートゥースやストリーミングなど便利な機能を使うと、補聴器の電池をものすごく消費します。カタログに載っている電池寿命は、通常使用で何時間~何時間というものなので、ストリーミングをほぼメインで使っていたりすると、もっと短くなってしまいます。付属品やアクセサリーなども含めて、補聴器の色々な機能を安定して使うとなった時に、従来の空気電池ではお客様のコストがかかってきてしまいます。

–災害の時は大丈夫ですか?

鳥飼:モバイルバッテリーで、USBで充電ができるタイプなので、コンセントがなくても電源供給はできると思います。

–補聴器と人工内耳を使用しているバイモーダルの方について、人工内耳優位の方が多いですか?また、補聴器を調整する上で、気をつけていることはありますか?

鳥飼:バイモーダルの方の調整は総合病院の補聴器外来でしかやったことはないですが、全部の患者さんではないですけれども、どっちが優位かでいうと人工内耳です。というのも、一つは補聴器のハウリングの問題があって、補聴器で人工内耳と同じくらい装用閾値を入れようとすると、中音域くらいまではなんとか確保できても、高音域はハウリングのためにあげられません。イヤモールドをしっかり作ってもやはり難しい部分があって、そのために人工内耳優位になるのはあると思います。

以前、あるバイモーダルの患者さんから「補聴器側の方がうるさい。音圧感が強い」という訴えがありました。補聴器外来で検査をしましたら、ファンクショナルゲインは人工内耳の方が出ていて補聴器の方が少なめでした。高度難聴用補聴器でハウリングしないギリギリの所までめいっぱいゲインを入れていたんですが、それでも人工内耳より少ないくらいでした。補聴器はことばの弁別を上げる機械ではないので、音はボンっと入ってくるんですが、あまりクリアでない音の成分が強く入ってくると邪魔してしまうんでしょうね。結局この方は、補聴器が常にうるさいという訳ではなく、特定の場面で気になるとのことだったので、人工内耳の調整は変えず、補聴器側のボリュームコントロールで対処してもらうことになりました。バイモーダルの場合、補聴器は補助的なものとして、やはり人工内耳優位の調整になると思います。

別の方で、もともと補聴器をつけていた側に人工内耳をつけることになって、非装用耳側に新たに補聴器をつけるようになった方がおられたんですが、みんながびっくりするくらい、「補聴器の方で聞こえる聞こえる」とおっしゃって。弁別をやってみるとそんなにとれないんですが、音や色んな情報が入ってくるからでしょうね、「すごい聞こえる聞こえる」っておっしゃって。会話は補聴器がなくても人工内耳だけで十分聞こえる方だったんですが、ご本人の「聞こえる」というのは、色んな音が入ってくるということなんだろうなと思います。適合検査では評価できない効果なんだと思います。

–APD(聴覚情報処理障害)の方から補聴器を試したいと相談されたことはありますか?

鳥飼:全く私は経験がないです。問い合わせも受けたことはありません。補聴器外来で私に回ってくる前に、診察でAPDの患者さんが来られたことはもしかしたらあるのかもしれないですが、補聴器外来にまわってきたことはないです。ご本人は本当につらいだろうなぁと色々見ていて感じています。

–障害者総合支援法対応の補聴器について、以前と比べて性能は進歩していますか?

鳥飼:良くなっています。ほとんどのメーカーがそれなりの性能のものを対象にしていて、例えばシグニア補聴器でいうと、総合支援法対応の補聴器は32チャンネルです。一般販売用の補聴器で上から2番目のものと同じグレードです。最新クラスではなくて、世代的には3世代前のクラスになります。世代は前のものですが、今でいうと、5シリーズという29万円くらいの補聴器とほぼ同等の機能がついています。ただ両耳で使う機能はついていません。成人の場合、片耳で公費が出ることがほとんどなので、片耳装用を基本とした機能になっています。ただチャンネル数や補聴器の基本的な機能はちゃんとついているので、すごく高性能です。

–どのメーカーも同じような性能ですか?

鳥飼:メーカーによって違います。例えばフォナックだと、グレードはいちばんベーシックなグレードで15万円くらいの機種を対象にしているんですが、そのかわり最新の機種です。最新機種なので、スマホと連携させたり、ブルートゥースでつないだりできます。補聴器の性能としてはベーシックな機能になるけれども、最新機能がついている方がいい場合はメリットがあります。オーティコンの場合は、iPhoneでダイレクト通話ができるものが対象になっています。

福祉用の補聴器にどの性能の補聴器を割り当てるかというのは、メーカーの努力がすごいです。福祉対応補聴器の交付は5年に1回なので、最低5年は使うということを考えて、使う人に合わせて機種を勧めています。取り扱いメーカーが少ない販売店だと、「この機能が必要だったら差額を出せば買えますよ」みたいな勧め方をしているところもあるかもしれないです。ただ、充電タイプを福祉対象にしているメーカーはまだないので、充電タイプがいい場合は差額を出すしか今のところ方法がないです。

補聴器とうまく付き合うために

–お店を選ぶ時に注目した方がいいポイントなどを教えてください。

鳥飼:まず1つ目は、兼業店か専門店かでいうと専門店がいいと思います。さらに専門店の中でより信頼性があるところとなると認定補聴器専門店になります。認定補聴器専門店には必ず認定補聴器技能者がいるので、耳鼻科の先生方との連携が必ずあります。

医療機関からご紹介下さる場合もありますし、私たちの立場から、補聴器をフィッティングしていく過程で、聴力測定で変動があったり、何かおかしいと感じた時は、こちらから耳鼻科の先生を紹介することもできます。また、医療費控除についても、医師が処方した補聴器で、認定補聴器専門店の認定補聴器技能者がフィッティングした補聴器を購入した場合が対象になります。どこかで補聴器を買った後に、医療費控除を受けられるらしいということで相談されたとしても受けられないですし、そもそもお店が認定補聴器専門店ではない場合は、補聴器相談医の先生も医療費控除の診断書を書くことができません。基本的にはまず、耳鼻科を受診することが大切です。また、補聴器相談医の先生がいる耳鼻科を受診した方がいいと思います。

次に、認定補聴器専門店の中で選ぶ際に、距離的なことも含めて通いやすいことはもちろんですが、認定補聴器専門店でも扱っている補聴器メーカーが違います。取り扱いメーカーの数は認定補聴器専門店の認定基準には含まれていないので、1つのメーカーを中心にやっている販売店もあれば、複数メーカーを扱っている販売店もあります。弊社は、定番は2つのメーカーを中心に販売していますが、補聴器の6大メーカーは全べ取り扱いがあります。補聴器選びをする時に、できるだけ色々なものの中から選んでくれる販売員がいるところの方がいいと思います。1つのメーカーの中から妥協して選ぶよりも、「なかなかうまくいかないならこれもありますよ」と提案できる方がいいと思います。

–補聴器を選ぶうえで大切なことは何ですか?

鳥飼:聴力レベルや聴力型というのが一番大事なところです。ただ、「補聴器で聞こえるようになりたいけれど、とにかく見せたくない」など、見た目や使い勝手の問題もあります。そこをどうつり合わせていくかです。最近は小型の耳あな型補聴器でも高度難聴に対応できるスピーカーを入れられるようになりました。ただ、今の聴力にギリギリのところに合わせてしまうと、聴力の変動などによって耐用年数まで使うことができない場合もあるので、最低でも耐用年数の5年間は使える補聴器というのをまずは考えなくてはいけないと思います。見た目を優先してしまうことは絶対にしてはいけなくて、「このお客様には最低この大きさが必要だ」ということをなんとか理解していただくようにしています。

使い勝手という面では、耳あな、耳掛け以外にも、今でもボックスタイプを必要としている方もおられます。例えば入院生活の長い方や、介護を受けている方など、性能で選ぶよりもとにかくコミュニケーションをとることが最優先になります。現在は海外の6大メーカーはボックスタイプの製造をやめてしまって、今は日本のメーカーしか作っていません。弊社はボックスタイプに関しては日本のメーカーを取り扱っています。今でもそんなに台数は多くないですが、必要としている方もおられます。

–周囲の家族などができる工夫はありますか?

鳥飼:補聴器を使いこなせるようになった後も続くことですが、やはり話し方や、会話する時の環境が大切です。いきなり用件を伝えるのではなく、まず名前を呼ぶなど注意をひいてから用件を話したり、理解しやすいように言葉を言い換えたりすることも大事だと思います。「家族から怒られる」「補聴器をつけているのに何で聞こえないんだと言われる」など、自信をなくしてしまわれたり、周りの方の理解がなくてすごく落ち込んでしまう方もおられるので、「ご家族の方を一緒に連れてきてください」とお伝えしています。

–補聴器の耐用年数は5年といわれてますが、イヤモールドやチューブはどれくらいの目安で交換したらいいですか?

鳥飼:ハードタイプのイヤモールドは変色することはありますが、経年劣化は少ないです。小児の場合は成長と共に作りかえますが、成人の方でもすごく体重が落ちると全く合わなくなったりします。今の補聴器はハウリング抑制がすごく優秀で、少し隙間があるくらいではハウリングしません。なので、本人は緩くなっていることに気づきにくいのですが、イヤモールドを押さえるとよく聞こえるということがあるので、そういう場合は作りかえた方がいいと思います。イヤモールドは修正もできますが、イヤモールドや耳あな型補聴器のシェルの修正は、長く使っている方の型が合わなくなったから行うというよりも、「当たって痛いところがある」「ちょっと浮く感じがする」など、最初に出来上がった段階で少し削るなどして修正できそうであれば行うものなので、長年使って型が合わなくなってきた場合は、修正よりも再作になります。型がしっかりしていないと、いくら修正しても焼け石に水というか、かえって形が崩れてしまってイヤモールドの意味をなさなくなってしまいます

シリコン素材などのソフトタイプは劣化が早いので、ひび割れが広がってちぎれたりすることがあります。最初は弾力があったのに、だんだん硬くなってくることもあります。

チューブや既成耳栓に関しては、メーカーのお客様向けのトリセツには2~3か月ごとに交換と書かれていますが、かなり個人差があります。チューブや既成耳栓は、汗や皮脂、化粧品や整髪料、紫外線などによって劣化します。あとは耳垢が柔らかめの方など。補聴器の点検に来ていただく頻度が、大体3か月に1回を案内しているので、その時の点検で交換した方がよさそうな時は交換、交換しなくてもあと3か月はまだ使えそうだなという時はそのままにしたりします。

–定期的にメンテナンスを受けた方が補聴器は長持ちしますか?

鳥飼:故障しないことを保証しているわけではないので、定期点検にしっかり来てくださっているのに故障してしまうことはあります。ただ、ご本人が気づいていない故障などもあるんです。何かの部品が外れてしまって、そこから汗がたくさん入ってしまったりとか、一つのマイクが全然機能していなかったりとか。ご本人はあまり自覚されていないけれども、定期点検で、プロからの目でここがおかしいと気づくことがあるので、車の場合と同じで点検は必要だと思います。お店によって違うのですが、ほとんどのお店が、そのお店で購入された補聴器のアフターケアに関しては、パーツの交換は別ですが無料でされていると思います。最初に補聴器を購入する時にかなりコストがかかるので、アフターケアも含めてのコストですという説明もよくしています。

–最近の補聴器は可愛いデザインのものが増えていますね。ワイヤレスイヤホンのような形をした補聴器があると聞いたのですが、どのようなものか教えてください。

鳥飼:イヤホン型補聴器というものです。分類としてはレディメイドなんですが、ワイヤレスイヤホンと同じように、充電ケースで充電できます。性能もかなり良くて、音楽もダイレクトで聞くことができます。今まで補聴器を隠す方向にもっていってたのを、あえてイヤホンに似せるというか、イヤホンにしか見えないデザインのものもあります。

–イヤホン型補聴器はどんな方が選ばれますか?若い方?

鳥飼:今、ちょうど貸し出ししているのは高齢の方です。BTEだとどうしてもマスクに引っかかるというので、オーダーメイドにするか考えるためにまずどんなものか試したいということだったので、耳あな型補聴器のように使ってみてまずは確認してくださいという意味でお貸ししています。その方はアプリなど入れずに耳あな型補聴器としてお使いですが、充電タイプなのですごく便利だと思います。

–イヤホン型補聴器はたくさん種類がありますか?適応は?

鳥飼:シグニアとGNリサウンドが作っています。総合カタログには載っていなくて別にカタログがあります。耳栓の種類がたくさんあって選ぶことができますが、難聴の程度は中等度難聴までです。それ以上の難聴は対応できません。聴力のレベルが合えばコストパフォーマンスはすごく高いなと思います。

補聴器の現状について

–JapanTrak 2018のデータによると、補聴器の装用者率は日本と外国で差があるという結果でした。どんな理由が考えられますか?

鳥飼:欧米諸国と比べて日本は、「身体障害者手帳該当の70㏈」という高いハードルを満たさない限り、補聴器の助成を受けることができません。どの国も難聴者の割合はそんなに変わらないのですが、日本の場合、難聴者のうち補聴器を使用している方は13%くらいです。補聴器の出荷台数は年々伸びていく一方で、性能がいい補聴器も出ているにもかかわらず、2012、2015年のデータと比べても装用者率はあまり変わっていません。補聴器が広まらないのはやはり、公的な助成制度の違いがすごく大きいと思います。自己負担がかなり大きい。ただその中でも、2018年度から補聴器が医療費控除の対象になったり、あとは各行政区で独自の支援制度を作っているところもあるので、少しずつ良くなってはいると思います。

一般社団法人日本補聴器工業会「国内の現状と取り組み」より

軽度難聴であっても、その人の生活背景をふまえて補聴器が必要だという医師の診断書があれば、公費助成がある国もあります。そういう国は補聴器を使い始める年齢も若いです。高齢の方がいざ補聴器を使うとなった時に、結構難聴が進んでいたりします。ある調査によると、日本では補聴器を考え始めてから実際補聴器を使うまでに、7年ほどかかるというデータがあるそうです。その間に、日常生活で聞こえないがためにどれだけ損失があるのか、どれだけ悔いなことがあるのかと考えると、7年はすごく大きいと思います。

障害者支援法対応の補聴器は、以前と比べてすごく性能が良くなっているので、通常買うと数十万円くらいする補聴器と同等の機能がついた補聴器が公費対象だったりします。身体障害者手帳のある方にとっては良くなっています。ただ手帳のない軽中度難聴の方への支援がなかなか…。これが補聴器の普及率が増えていかない原因の一つだと思います。

お金の問題以外にも、補聴器に対してネガティブなイメージを持っている方も多いです。今はイヤホン型補聴器などもありますが、こういうものを自身で調べて知っている方はほとんどいないです。補聴器にマイナスなイメージを持つ方が多いのは確かなので、それも普及率が伸びない原因だと思います。

あと、受け売りですが、日本語の音声認識が母音主体というのがあります。加齢性難聴は高音から少しずつ下がってきますが、高音域の情報が少し少なくなったとしても、母音主体なのでなんとか会話ができてしまいます。一方で中国語や英語など子音の情報で聞き分けている言語の国の方は、周りから指摘される前に難聴を自覚することが日本人より早いのだと思います。日本の場合は、いい風に考えれば難聴の方でも聞きやすい言語なのかなとも思いますが、一方で自覚を持つのが遅くなってしまうという面があります。聴力と共に、ことばの弁別も下がってしまったりすると、その状態から補聴器をうまく使っていくのはすごく難しいという現状があります。

–満足度も日本は低いですよね。その理由はどのように感じますか?

鳥飼:これは販売する側の問題だと思います。日本では様々なお店で補聴器が売られているので、色々なところで補聴器が買えてしまいます。テレビショッピングでも扱っていたりするので、つい買ってしまう方も多いんです。何十万円で買っても役に立たないというのは、それはやはり売る側の問題が非常に大きいと思います。売る側がちゃんとした販売の仕方をしていないので、どうしてもそこで満足度は落ちてしまいます。補聴器選びの時は、まずはきちんとお店を選ぶというのが満足度につながってくると思います。

http://www.hochouki.com/files/JAPAN_Trak_2018_report.pdfより引用

–通える範囲に耳鼻科や補聴器店がない地域もありますよね。仕方なく農協さんから補聴器を買った(高額)けれど、よく聞こえなくて使っていないという方のお話もちらほら聞きます。

鳥飼:補聴器外来では、新規購入だけではなくて、補聴器をすでに持っている方も多くおられます。「何年か前に買ったけれども全然使えていない」という方も来られるので、その調整フォローも依頼されたりします。調整できるメーカーならある程度調整するのですが、農協さんに入っている一部の業者では、メーカーのOEMで自社オリジナルの補聴器を販売しているところがあります。中身はちゃんとした一流メーカーの補聴器ですが、その会社の専用ソフトじゃないと調整できないようにガードがかかっていることがあります。そうなると、補聴器外来では、特性をとるくらいしかできないんです。本来であれば販売した会社がしっかりアフターケアするべきなんですが、補聴器外来に来られて何とかしてあげたいと思ってもできない時ははがゆく感じます。

–補聴器販売に関する規制は今後変わってくる可能性はありますか?

鳥飼:認定補聴器技能者の制度もそうですし、医療費控除の対象も、補聴器相談医と認定補聴器専門店とのつながりに限定したものになっているので、以前よりはめちゃくちゃな販売方法ができないようにはなってきていると思います。ただ、今の医療機器販売業の資格は講習を受ければ誰でも取れてしまうので、それで補聴器を取り扱うことができてしまいます。補聴器を販売するのに認定補聴器技能者じゃなきゃいけないという規制はないんです。ネットを見ていると、本来ネットで販売すべきではない機種が通販で売られていたりするので、使う側は簡単に補聴器を手に入れられるので手を出しやすいんです。こういう部分は欧米諸国と比べてしっかりしていないので、いちいち病院に行かなくても補聴器を買えてしまうというのは、買いやすいという面では敷居が低いのかもしれないですが、買った後の問題が大きいです。メーカーさんもやはり会社の売り上げなどにも関わるので、販路を限定してしまうとメーカーさんも苦しい面もあって、ねじれてる部分だと感じます。

認定補聴器技能者としての歩み

–鳥飼さんは補聴器分野に関わって20年になるとのことですが、補聴器販売をしていて嬉しいと感じたこと・逆に大変だったことについて教えてください。

鳥飼:嬉しいと感じたことは、商品を購入いただいて、販売する側がお客様に「ありがとうございます」と言うのは当たり前のことですが、この仕事はお客様やそのご家族の方などからも「ありがとう」と感謝のお言葉をいただけます。これは本当に嬉しく、励みになります。また、初めてお会いした時に、補聴器装用に対しての不安や抵抗感から強張った表情だったお客様が、補聴器を使いこなせるようになってから別人のように明るい表情に変わったりすると、補聴器がきっかけでQOLを改善できたことに補聴器技能者としてやりがいを感じます。

大変なことは、補聴器外来では、他社で購入された既にお持ちの補聴器の再適合を依頼されることもあるので、多くのメーカーの補聴器フィッティングに対応できなくてはなりません。補聴器の耐用年数は5年ですが、修理しながら10年近く使用している患者さんもおられ、最新のカタログには既に載っていない旧型機種の知識(性能や販売当時の価格)も各メーカーごとに把握しておく必要があります。ここは経験がものをいうところだと思います。弊社では、修理対応が終了している機種のフィッティングは基本的にお受けできないのですが、現行機種に繋がるルーツのようなものを知っておくと、買い替え相談となった時の機種選定に役立つことがあります。

–これまでのご経験の中で、印象に残っている方はおられますか?

鳥飼:10年ほど前に、補聴器メーカーからの紹介で、他社で購入された補聴器をお持ちのお客様のフォローを担当しました。このお客様は左右の聴力に差があり(良聴耳:中等度難聴 非良聴耳:高度難聴)、良聴耳に補聴器を装用、非良聴耳にクロス送信機を装用しておられました。職場が変わり購入店に通えなくなったため補聴器メーカーに問い合わせたところ、当時私が勤務していた販売店を紹介されたとのことでした。

しばらくは微調整と定期的なメンテナンスなどでご来店されていましたが、ある時に「クロスのおかげで聞こえない方の音の様子は分かりやすくなるけれど、騒々しい環境では正面にいる人の声さえも聞き取れない。なんとか今以上に聞き取れるようにできないものか?」とご相談がありました。騒音下での言葉の聞き取りは片耳装用では改善が難しく、非良聴耳にも補聴器をつけて両耳装用の効果が見込めるのかを検討してみることにしました。実は、購入前に非良聴耳にも補聴器を試したそうですが、そちら側から聞こえる音は響きが強い不快な音質で、「これではとても装用できない」「こっちの耳は聞こえない」との結論から、クロス送信機を勧められて購入したと伺いました。

非良聴耳の語音弁別を測ってみると、音質は悪いながらも最高で8割程度聞き取れることがわかり、「時間をかけて慣らしていけば不快感は少なくなるかもしれません。その上で装用効果を出すためにはちょっと根気が必要ですがやってみますか?」とお伝えしました。メーカーから取り寄せる試聴用補聴器の返却期限が3ヶ月後だったので、それを試聴期間として目標を掲げたことで、お客様も「3ヶ月間頑張れば今よりも聞こえるようになるかもしれない」と意欲的に取り組んでくださいました。

夜8時まで営業していた店舗でしたので、毎週仕事終わりに通っていただき、毎回 1~2 時間かけてフィッティングしました。不快感が強い時はクロスにつけ替えることもあったそうですが、フォローをしていく過程で、ある時に「響く」「濁ったような音質」などの訴えをあまり聞かなくなり、「こういう状況でもっと聞こえるようにできないか?」といった前向きなご要望を仰ることが多くなってきました。いつの間にかクロスはほとんど使わなくなり、それからは装用効果重視のフィッティングにシフトチェンジして、最終的には両耳装用で終日装用できるまで使いこなせるようになっていました。

両耳装用となった後も「商談の席や会議でもっと聞こえるようになりたい」とますます意欲が出てきて、FM送信機と受信機を購入されました。補聴器技能者の立場からお客様のQOL の改善に貢献できたことに、大きな自信を持つことができた経験でした。

(このお客様とのやりとりの様子は、当時のNHK E テレ「ろうを生きる 難聴を生きる」で放映されました。鳥飼さんも認定補聴器技能者の立場で取材を受けられたそうです)

鳥飼さんのおられるブルーム河原町店については、下記のホームページをご覧ください。

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