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APD(聴覚情報処理障害)とは?共に付き合っていくためにどんな工夫ができるのか

こんにちは、KIKOE LIFEです。

2020年6月、APDに関する新しい書物『APD「音は聞こえているのに聞きとれない」人たち 聴覚情報処理障害(APD)とうまくつきあう方法』(小渕千絵著)が発売されました。この本を含めてもAPDに関する書物は3冊と少なく、一般社会での認知もまだまだ浸透していないのが現状です。

今回、APD(聴覚情報処理障害)とはどのようなものなのか?どのように向き合っていけばよいのか?についてまとめてみました。

APDの特徴とは

APDは、聴力検査をしても異常がないにも関わらず、言葉がよく聞き取れない状態のことをいいます。

一般的な難聴は、音が脳に伝わるまでの伝達経路に何かしらの問題が起こることで聞こえにくさが生じます。一方、APDの場合、この伝達路に問題はないものの、様々な要因により脳での言語認識処理がしにくくなるため、言葉を理解しにくい状態になります。

下記はAPDの特徴的な症状です。

◆雑音の中では話が聞き取れない

◆複数人での会話は聞き取りにくい

◆口頭で言われたことは忘れてしまったり理解しにくい

◆話を聞きながら、メモやノートをとるのが苦手

◆早口や小さな声が聞き取りにくい

◆話が長くなると、途中から何を言っているのかわからなくなる

下記のサイトはAPDの聞こえ方を漫画で表したものがたくさんまとめられていて、とてもわかりやすいです☟

APDは症状?

APDに関する研究は元々、脳損傷により聴覚に異常はないにも関わらず聞き取りにくさが生じる場合があったことに端を発しています。しかし研究が進む中で、脳に器質的・機能的な問題がなくても、認知機能に何かしらの問題を抱えることによりAPDの症状を呈する場合があるということが明らかになってきました。

認知機能の中でも特に、言葉の聞き取りにおいて特に重要な要素が注意力記憶力です。

注意力

下記の4つの注意力のうちどれか一つでも欠けると「聞き取り困難」の症状が出やすくなります。

持続的注意…注意や集中を持続させる力

選択的注意…多くの情報の中から必要な情報だけを選ぶ力

分配的注意…3人以上で会話をしたり、運転しながら助手席の人と会話をするなど、いくつかのことに同時に注意を向ける力

注意の転換…一つのことに注意を向けている時に、別のことに気づいて注意を切り替える力

記憶力

言葉を聞き取るために重要な記憶の能力が「ワーキングメモリー」です。ワーキングメモリーの働きは入ってきた情報を脳内にメモ書きし、どの情報に対応すればよいのか整理し、不要な情報は削除することです。

例えば会話の場面では、相手の話を一時的に覚えて(記憶)、話の内容から相手の意図をくみ取り(整理) 、話の展開に従って前の情報をどんどん忘れる(削除)という作業を無意識に行っています。

このワーキングメモリーの働きが低下すると、必要なことをすぐに忘れてしまったり、入ってきた情報の中で何に注意したらいいのかわからず混乱してしまったり、行動や話題の切り替えがしにくくなったりする場合があります。

最近では、APDを「聴覚の神経系の問題(=Auditory processing disorder)」と捉えるのではなく、端的に症状のみを表す「聞き取り困難(=Listening difficulties)」と捉える方が良いという専門家も増えてきています。

APDの背景要因

APDは欧米も含めて研究途上の段階であり、日本においても明確な診断基準はまだ整えられていないのが現状です。ただ、日本におけるAPD研究の第一人者である小渕千絵教授(国際医療福祉大学)によると、APDの背景要因として下記のような傾向がわかってきたそうです。

子どものAPDの場合

生まれつき認知機能に問題のある発達障害や、言語発達上の問題を抱えている場合、複数の言語環境におかれている場合(母国語である日本語を十分に獲得しないまま他の言語ばかりを学習したり、両親の言語が異なるなど)などが背景要因として挙げられます。

大人のAPDの場合

脳損傷タイプ、発達障害タイプ、認知的な偏りタイプ、心理的な問題タイプの4タイプに分けることができます。

『APD「音は聞こえているのに 聞きとれない」人たち 聴覚情報処理障害(APD)とうまくつきあう方法』より引用

背景要因の違いにより、例えば「雑音の中では聞き取りにくい」という症状を示していても、「静かな場所でなら聞き取れる」タイプと「静かなところでも聞き取りにくい」タイプに分かれるなど、聞こえ方や必要な対処方法が少しずつ異なってきます。

APDを治す治療法は現時点ではないため、APDとどのように向き合い、関わっていくのかを考えることがとても重要になってきます。そのためにも、まずはAPDについて適切な評価を受けることが大切になります。

聞き取りにくさを感じたら?

まずは聴力検査を受ける

APD症状を訴える方の中には、実は難聴が隠れていたという方も少なくないので、音の検査や言葉の聞き取り検査といった聴力検査をまずは受けることが大切です。

聴力検査についての詳しい説明は下記を参考にしてくださいね☟

APDのスクリーニング(質問紙)

子どものAPDチェックリストとして、「フィッシャーの聴覚的問題に関する質問紙」があります。全部で25個ある質問のうち、「チェックがつかなかった個数×4%」で表した数値が、72%以下であった場合にAPDの可能性が高いと言われています。

ただ、このチェックリストは聞こえに関する項目や様々な環境を想定した質問が少ないため、おおよその目安として考えてください。

大人向けの質問紙としては、小渕千絵教授が作成された「聞こえにくさのチェックシート」があります。この質問紙は4つのカテゴリーで構成されています。

◆音声聴取…雑音の多い場所でどのくらい聞き取れているか

◆空間知覚…音がどの方向から聞こえているかを判断できるか

◆聞こえの質…日常生活音など、音声以外の音ははっきり聞こえているか

◆心理的側面…聞こえにくいことが心理的にどう影響するか

一度このチェックシートを試してみたい方は、『APD「音は聞こえているのに 聞きとれない」人たち 聴覚情報処理障害(APD)とうまくつきあう方法』(小渕千絵著)にチェックシートが載っているので活用してみてください☟

聴覚情報処理能力検査

一般的な聴力検査(音の検査、言葉の聞き取り検査)ではなく、聴覚情報処理能力を調べるための5つの検査で構成されています。

①両耳分離聴検査

左右の耳にそれぞれ異なった音声(数字・単語・文章など)を同時に聞かせ、それを復唱させる検査です。

②低冗長性検査

高音域(主に子音部分)の周波数成分にフィルターをかけたり早口にするなど、冗長性(手がかり)の低い語音を聞き取る能力を調べる検査です。

③時間情報処理検査

非言語音(クリック音、ノイズなど)を用いて、音の高低や長短の違い、ギャップ音の検出などを聞き分ける能力を調べる検査です。

④両耳融合能検査

片耳ずつでは意味をなさない音の情報を両耳に均等に注意を向けることで、ひとつの音として認識できるかを調べる検査です。

⑤聴覚識別検査

「コップ」「モップ」のように子音のみが異なる検査音などを聞かせて、正しく識別できるかどうかをみる検査です。

背景要因を明らかにする

APDは背景要因も様々で、それによって対処方法も異なってくるため、多角的な視点で丁寧に面接を行うことが大切になります。下記は小渕千絵教授が面接時に使用している質問項目の例です。

◆主訴や既往歴

◆家族構成

◆胎生期や出生時の情報

◆発達歴(言語発達状況や行動特徴、人間関係など)

◆感覚過敏の有無

◆発達・認知検査の結果

◆学業成績

◆集団生活への参加状況

◆就労状況

◆心理的な問題の有無

◆性格特性

◆これまでのAPDに関する相談歴や家庭環境

各種検査

必要に応じて発達障害の鑑別検査、注意検査、記憶検査、性格検査などを行い、面接内容などとも照らし合わせながらAPDのタイプを割り出していきます。

APDの診療ができる病院

APDについて専門的な検査や診療を行っている病院は全国でもまだまだ少ないのが現状です。また、該当する病院でも、APDを診れる医師と診れない医師がいるため、どの医師の予約を取ればいいのか事前に把握しておくことが大切です。

APDの診療ができる病院一覧および担当医師名については下記にまとめられています。

APDの診療ができる病院が限られているため、予約に数か月かかる病院もあります。また、詳しい検査のために場合によっては何度か受診が必要になることもあります。

学校や仕事があると、どうしても遠方まで受診することが難しい場合もたくさんあると思います。病院間の連携やオンライン診療の活用など、どこに住んでいても相談できる体制が整えばいいなぁと感じます

APDとどのように付き合っていくか?

現時点において、APDは治療で治るものではないため、どのように向き合うか、どんな工夫を行っていくかを考えることがとても重要になります。

下記の記事は、APD当事者が活用できるライフハックについて、目的や状況ごとに様々な方法が紹介されていてすごくわかりやすいです。

また、APD当事者会では、交流会や勉強会などが定期的に開催されています。当事者同士で情報交換をしたり、悩みや思いを共有したり、とても心強い存在だと思うので、よければぜひ参加してみてくださいね。

◆APD当事者会 APS (Twitter)

https://mobile.twitter.com/apd_peer

◆APD当事者会 APS (こくちーず)

https://www.kokuchpro.com/group/apd_peer/

◆APD当事者会 APS (note)

https://note.mu/apd_peer

◆東北APD当事者会 (Twitter)

https://twitter.com/APD_tohoku

◆東北APD当事者会 (こくちーず)

https://www.kokuchpro.com/group/apd_tohoku/

◆東北APD当事者会 (note)

https://note.com/apd_tohoku

◆近畿APD当事者交流会 (Twitter)

https://twitter.com/PeerApd

◆近畿APD当事者交流会 (こくちーず)

https://www.kokuchpro.com/group/apd_kinki/

◆近畿APD当事者交流会 (note)

https://note.com/kinki_apd

◆九州APD当事者交流会 (Twitter)

https://twitter.com/APD_kyushu

◆栃木APD交流会(Twitter)

https://twitter.com/7CUN9jkN9EodjPJ

◆聴覚情報処理障害(APD)Webサイト

https://apd-community.jimdofree.com

APDに関する書物

APDに関する書物は、現在3冊あります。

下記の書物にもAPDについての記述があります。

さいごに、下記は難聴者向けに書いたものですが、APDの場合でも周囲の人に正しい理解を持ってもらうことはとても大切になります。周囲への伝え方の一例として参考にしてもらえれば幸いです。

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