コラム

新生児聴覚スクリーニング(NHS)の現状と課題【求められる在り方とは?】

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生まれつき難聴のある赤ちゃんは1,000人に1~2人と言われており、その数は他の先天性疾患と比べても高い頻度です。

先天性疾患の発症率(新生児聴覚スクリーニング 日本産婦人科医会の取り組みより一部改変)

しかし、すべての新生児に対して全額公費で行われる先天性代謝異常検査と異なり、新生児聴覚スクリーニングは実施が義務付けられていないため、受検率や検査費用に対する公的補助など、市町村で取り組み方に差があるのが現状です。

平成29年度 先天性代謝異常等検査実施状況/厚生労働省子ども家庭局母子保健課より引用

新生児聴覚スクリーニングとは

新生児聴覚スクリーニング(NHS)とは、生後間もない赤ちゃんを対象とした聴力検査のことで、難聴を早期に発見し、適切な対応や支援につなげる目的で実施されています。

産婦人科医が主人公の人気漫画『コウノドリ18巻』にも新生児聴覚スクリーニングが登場します

NHSの目的

聞こえにくさがあると、どうしても言葉の発達(語彙力、言語力など)に大きな影響を及ぼします。難聴を早期に発見することで、補聴器や人工内耳、手話など個々に合ったコミュニケーション方法を活用しながら、言葉の発達を促していくことができます。

NHSは難聴の早期発見・早期支援を目指す

1-3-6ルールとは?

①:生後1か月までに聴覚スクリーニング検査を行う

②:生後3か月までに精密聴検を行い、難聴を診断する

③生後6か月までに補聴器装用や療育などの支援を開始する

また、難聴児の90%は聞こえる両親のもとに生まれるため、難聴のある我が子をどう受け止め、どう関わっていけばいいのか、保護者が抱く不安は計り知れないものがあります。できるだけ早期に難聴を発見することで、対象児だけでなくその保護者に対するフォローもあわせて行うことができます。

検査の種類

新生児聴覚スクリーニングに用いる聴覚検査は、自動聴性脳幹反応(AABR)と耳音響放射(OAE)の2種類があります。※新生児聴覚スクリーニングマニュアル/日本耳鼻咽喉科学会より画像引用

自動聴性脳幹反応(AABR)とは

外耳道から音を聞かせて、脳幹までの反応(脳波)を調べる検査

耳音響放射(OAE)とは

外耳道から音を聞かせて、内耳の反応を調べる検査

他覚的聴覚検査「ABR」とは?(Instagram投稿)
他覚的聴覚検査「ABR」とは?(Instagram投稿)

結果について

AABR、OAEともに検査の結果はパス(反応あり)とリファー(要再検)で表されます。平成29年度以降の母子手帳には、新生児聴覚スクリーニングの結果を書く項目が追加されました。

新生児聴覚スクリーニング 検査マニュアル/香川県より引用

NHSリファー後の流れ

新生児聴覚スクリーニングでリファー(要再検)が出た場合、各都道府県にある精密聴力検査機関でより詳しい検査を行います。精密聴力検査の結果、難聴が確定した場合は、療育・教育施設と連携しながら対象児やその家族への支援を行っていきます。

NHSの結果は100%正しいわけではない

新生児聴覚スクリーニングは、難聴の早期発見・早期支援を行う上でとても大切な検査ですが結果が100%正しいわけではありません。その理由としては、 ①偽陽性が一定の割合で生じる(=難聴がないのにリファーになる)、②偽陰性が一定の割合で生じる(=難聴があるのにパスになる)の2点が挙げられます。

偽陽性が生じるとは

NHSを受けた赤ちゃんのうち、1000人中4人にリファーの判定が出て精密聴検を受けています。しかし精密聴検を受けると、4人のうち2人は正常聴力、1人は片耳難聴、1人は両耳難聴となり、難聴がないのにリファーが出てしまう場合があります。

偽陰性が生じるとは

新生児聴覚スクリーニングが両側パスでも、その後進行性・遅発性難聴が生じる場合があります。新生児聴覚スクリーニングがパスであっても、普段のきこえやことばの様子を観察し、少しでも気になることがある場合は適宜検査を受けることが大切です。

乳児の聴覚発達検査とその臨床および難聴児早期スクリーニングへの応用(田中美郷ら、1978)より一部改変
乳児の聴覚発達検査とその臨床および難聴児早期スクリーニングへの応用(田中美郷ら、1978)より一部改変

新生児聴覚スクリーニングについては下記のマニュアルがとてもわかりやすいので参考にしてくださいね。

NHSの現状と課題

新生児聴覚スクリーニングを行う産科施設数は年々増加しており、2016年の調査では94.3%の施設で検査の実施が可能になっています。また、2017年4月に産婦人科診療ガイドライン(産科編2017)で新生児聴覚スクリーニングの推奨度が上がったため、現在はさらにその割合は上昇していると考えられます。

しかし、検査可能施設率が増加する一方で、新生児聴覚スクリーニングは様々な課題も抱えています。

市町村で受検率がバラバラ

新生児聴覚スクリーニングの検査実施率は自治体によって大きな差があり、2017年の調査では、12.4%の児が検査を受けていない状況にあります。

公的補助がないもしくは一部補助の市町村が多い

新生児聴覚スクリーニングは自費診療であるため、その検査費用は自治体によってばらつきがあります。

検査費用の公的補助実施率は年々増えていますが、全額ではなく一部の補助にとどまる自治体が多いため、多くの場合で自己負担が生じてしまいます。未受検の背景には、経済的な理由で検査を受けられない場合も多数含まれていると考えられています。

約3割の施設がOAEを使っている

OAEは機器の購入費用やランニングコストがAABRに比べて安いため、OAEを用いている施設が全体の約3割を占めています。

しかし、OAEではその仕組み上、聴神経の異常を検知することが困難で、さらにAABRに比べリファー率が高い(=偽陽性率が高い)という問題があります。

平成28年の厚生労働省の通知でも、新生児聴覚スクリーニングはAABRで行うことが推奨されています。

NHSの望ましいあり方とは

新生児聴覚スクリーニングは、難聴が発覚した児に対して適切な療育につなぐこと、そして様々な不安を抱える保護者をサポートすることに大きな意義があります。そのためにも、誰もが必要な支援を受けることができる体制の整備が求められます。

NHSに求められるあり方

■OAEではなくAABRで実施する

■検査費用を全額公費でまかない未受検をなくす

できるだけ早期に、検査・相談・支援を行えるように横の連携を強化する

医療・保健・福祉・教育関係者の難聴に対する理解を深める

■NHS受検有無の把握、NHSリファー児や精密聴検後の結果の把握、対象児や家族のフォローなど、行政も含めたサポート体制を構築する

■NHS後の遅発性、進行性難聴にも気づけるように、乳幼児健診や就学時健診などでも気づける仕組みを構築する

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