インタビュー

聴覚障害と仕事|自分らしく働くために大切にしていること

kikoelife

自身の聞こえについてどう伝えたらいいのか、周囲の理解をどのように得たらいいのか、どんな工夫ができるのかなど、職場環境で様々な悩みを抱えながら、孤独感や不安感にさいなまれる当事者がたくさんいます。2024年4月から、民間を含むすべての事業者に対して合理的配慮の提供が義務づけられます。当事者を取り巻く環境が新しい局面を迎えようとしている今、聞こえにくさとどう向き合い、日々の仕事にどのように取り組んでいるのか、「きこえ×ライフハック展2023」で講演していただいた谷口穂(みのる)さんにお話をお聞きしました。

谷口穂さんのプロフィール

1995年生まれ。小中高を地域の学校で過ごす。同志社大学経済学部卒業後、京都市聴覚言語障害センターに臨時職員として入社。その後、パナソニック株式会社を経て、現在はパナソニック インダストリー株式会社 電子材料事業部 営業企画部に在籍。聴覚障害で身体障害者手帳4級を所持。

聞こえにくさを受け止められなかった学生時代

ーー聞こえにくさがわかったのはいつ頃ですか?

谷口:小学校1年生の健康診断の時です。私はそれまで聞こえていると思っていたので、急に呼び出されてなんのことかわかりませんでした。父が感音性難聴で2級の手帳を持っています。私も何かしらあるんじゃないかという話になり、検査をすると同じ感音性難聴だとわかりました。母に聞いても「幼稚園の時は普通に聞こえていた」と言っていたので、母も気づいていなかったのか、そもそもその時は症状が出ていなかったのか、どちらなのかはわからないです。

ーー難聴があるとわかってご家族の反応はどうでしたか?ご自身の受け止め方は?

谷口:家族の反応は覚えていないですね。私自身もどれくらい大変なことになっているのかわかっていなかったというのもあるかもしれないです。当時は今よりもっと聞こえていたので、軽い感じで受け止めていました。

「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より

ーー聞こえにくさに伴う困り感をはじめて感じたのはいつ頃ですか?

谷口:小学4年生くらいの時です。国語の時間に一文ずつ交代しながら音読をしていくのですが、僕はみんながどこまで読んでいるのかわからなくて、その時「めちゃくちゃしんどいなぁ」と思いました。

ーーきこえ×ライフハック展の講演で、学生時代は周囲に難聴を隠していたと話しておられましたが、どのような気持ちだったのですか?

谷口:日本人ぽいなと思うかもしれないですけど、「人と違うことが嫌だ」みたいな気持ちがありました。「友達ができなくなっちゃたらどうしよう」と。周りで聞こえないのが私一人だけだったので、どうなるかわからないから、それだったら隠しておく方がいいなと。当時はもう少し聞こえていたので、多少ごまかせたというのはあります。

「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より

ーーご家族に聞こえに関して相談などされましたか?

谷口:私はできなかったですね。自分でもずっと気にしていたので、言えなかったです。今だから話せますけど、私が耳が悪いことを知らない友達から「おじいちゃん」などと軽くからかわれたり、流していましたが実はすごくショックで。だから、家族にも言いたくないし、友達にも言えないから、自分の中で抑えておこうみたいなところがありました。その時に何かしら早めに手を打っていたら、隠すことはなかったのかもしれないです。

ーー学校の先生に相談は?

谷口:先生にも相談してないです。ただ、勉強の面が心配だったので、担任の先生には耳が悪いことは事前に伝えていました。それで、こっそり前の席にしてもらったりしました。くじ引きをしているけれど、実は最初から決まっているみたいな。一人で悶々と抱えながら、小・中・高・大までいってしまいました。

ーー補聴器はいつ頃されたのですか?

谷口:小学校や中学校の時、親からは「補聴器をしたら?」と言われていたのですが、私は恥ずかしさなどもあって「嫌だ!」と言っていました。からかわれたりするもの嫌だったので。声は聞こえていましが、周りがガヤガヤしていたり、後ろの方で遠くから言われるとわからなかったです。

ーーはじめて補聴器を買ったのはいつ頃ですか?

谷口:大学生の時に片耳だけ買いましたが、つけていませんでした。授業中も全然。両耳とも悪いので、正直片耳だけつけてもあまり聞こえなかったというのもあるのですが…。高い買い物だけしてずっと置いていたので、もったいないことしてしまいました。

自分と向き合えるようになった転機

ーー大学卒業後、京都市聴覚言語障害センターに勤められた背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

谷口:大学卒業頃になると、正直自分でも「聞こえ的にまずいな」と思うようになりました。この先社会人になるにあたって、このまま隠し通してやっていけるのかというと、やっぱりいつか変わらないといけない時が来ると思いました。それだったら、同じような悩みを持っている人に触れられるような仕事がないかなと思って、そこで見つけたのが聴覚言語障害センターでした。

ーー京都市聴覚言語障害センターは、難聴の方もろうの方もたくさんおられますよね。入社して感じたことは?

谷口:びっくりしました、ほんとに。「なんだここは」みたいな。悪い意味じゃないですよ、すごいなって。「あの人ほんとに聞こえてないの?なんでわかるの?」みたいな。「これが手話か」というのもそうですし、手話以外にも色んなサービスがあるんだなと思いました。手話通訳の派遣や要約筆記もはじめて知りましたし、世の中にはサポートしてくれる人が案外いるんだなと衝撃を受けました。

ーー大学では情報保障の利用はしていましたか?

谷口:ノートテイクなどあるんですが、私は聴覚障害を隠していたので…。障害学生支援室も、入学前に少し相談に行って、「こういうサービスがあるから困ったら言ってね」くらいで終わってしまいました。私は自分から動かなかったので、何も起きずという感じです。

ーー社会人になって初めて色々なサポートがあることを知って、多くの当事者にも出会われたのですね。どのような気持ちの変化がありましたか。

谷口:センターの皆さん、すごく元気なんですよね。ビックリしましたほんとに。楽しかったです。だから、「私はこんなくらいでなんで悩んでるんだろう」と思いだして。すごく元気をもらえました。何より、聴覚障害を隠さなくていい環境にいられたというのが嬉しかったですね。「あぁ、そんな気にしなくてよかったんだ」と、杞憂みたいに感じて。 今は補聴器もないと生活できないというくらい愛用しています。「あの時なんで使わなかったんだ」というくらい。もったいないことをしたなぁと思います。

両耳に小型の耳穴型補聴器を装用中。「外見からはつけていることがわからないので、その分、聴覚障害者だと気づいてもらいにくい面もあります」と語る谷口さん

ーー学生時代に感じていた補聴器に対するマイナスな思いは、今はどうですか?

谷口:まだ正直、ゼロではないですね。完全に気にしていないかというと、そうではないかもしれないです。ただ、買った当時に比べて、今使っている補聴器(耳穴型)が壊れた時は、耳掛型でもいいかなくらいの気持ちにはなりましたね。隠すような恥ずかしいことじゃないとわかりましたし、オープンにしたら馬鹿にされるとは思わなくなりました。

ーー今の会社に転職しようと思ったきっかけは?

谷口:もともと、聴覚言語障害センターに行く前に、就職活動は4年生の時にしていたのですが、結論から言うと、上手くいきませんでした。聴覚障害があると伝えるとすごく嫌そうな顔をされて、途中で「これはもうないなぁ」と自分でも感じられるくらいの選考もありました。結構傷ついて終わって、そんな時に聴覚言語障害センターに出会ってるんです。そこからまたチャレンジしたいなと思えたのは、身体障害者手帳をとったというのも一つですが、センターで色々なことを学ぶ中で、元々自分で形にしていく仕事をしたいと思っていたので、トライしてみようと思ったんです。障害者向けエージェントの「ゼネラルパートナーズ」というところで探しました。聴覚言語障害センターに行ったからこそ、自分から働きかけて、胸をはって、就職活動をやっていくという方向にもっていけたので良かったです。

ーー身体障害者手帳を取得したことは、気持ちの面でも変化がありましたか?

谷口:手帳があれば働けるというわけじゃないのですが、やっぱりあることによって、正式に国として障害があることを認めてもらえるという安心はあるかもしれないです。

「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より

社内の当事者との出会いに勇気をもらえた

ーー現在おられるパナソニックインダストリー株式会社では、どのようなお仕事をされていますか?

谷口:プロモーション(販売促進)を担当しています。例えば、展示会でどんな商品を出すか、どんなパネルを作るか、どんな形でお客さんに紹介するか、どのように告知するかなど、自社商品の認知度向上、販売拡大に貢献できるよう取り組んでいます。アメリカ、ヨーロッパ、中国などの海外展示会では英語も使ってやり取りしています。数万人の来場者がある大規模な展示会もあるため、気合いが入りますね。

ーー展示会ブースでの対応もしているのですか?

谷口:現場の対応は基本的に営業、技術の皆さんに対応いただいています。私は全体のサポートに回ることが多いです。

ーーやりがいはいかがですか?

谷口:あります。何もないところから、最後自分が考えたものが展示会会場で形になっているので、おもしろいですよ。頭をすごく使わないといけないですが。色々な方ともたくさん調整します。ゼロから生み出して何かを作るということがやりたかったので、楽しみながら働けているなと思っています。

ーー入社当時、聞こえについてどのように伝えたのですか?

谷口:そもそもの入口がゼネラルパートナーズさんという障害者向けのエージェント経由で入っているので、「谷口さんはこういう症状があって、こういう配慮が必要です」とエージェントから伝えてもらう形で進めていたので、最初から何か困ったということはあまりないです。

ーー入社後は、どんな工夫をされていますか?

谷口:オフィスも広いので、離れてしまうとよく聞こえないですし、当然人もたくさんいるので、ワーワーガヤガヤ聞こえてくる中で聞き取るのは難しいです。なので、よく話す上司の隣に席を配置してもらったり、メモパッド(筆談具)を机に置いたり、肩をたたいて教えてもらったり、日々アップデートしながらやっています。異動した時も、あいさつ回りで「耳が悪いので聞き返すことがあります」と最初からお願いはしています。口頭で伝えることが多いですね。展示会で一回説明員をした時は、ネームプレート用にカードを作りました。「聴覚障害があるので聞き返すことがあります」みたいな。聞き返した時もカードを見せるとマスクをとってもらえたりしました。

ーー講演の際、自分らしく働くという実現のために、まずは「自分を知る」ことが大事とお話しされました。「自分と向き合う」ことはすごく難しいことだと感じています。どのように自身の聞こえと向き合ってこられたのですか?

谷口:口で言うのは簡単ですけど、難しいですよね。まずは、他の方をロールモデルとして見るというのは大事だと思っています。聴覚言語障害センターにいる時に、みんながどんな配慮をしてもらっているのかという観察を陰ながらさせてもらいました。そこから、自分の症状が一体どんなものなのか、症状に対してどういう配慮の手法があるのかを知って、それらの手札の中から選んでいくというような形です。自分から何かをどうにかしないといけないと感じるかもしれないですが、まず一回、他の人がどうしているのかというのを見ることは大切だと思います。そのような意味で同じような当事者と会える場所は絶対に必要だと思います。

「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より
「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より

ーー谷口さん以外にも会社内に聴覚障害者はおられますか?

谷口:同じフロアにいるのは私だけですが、他の事業部や事業会社に目を向けるとたくさんいらっしゃいます。大学の時は、参加したいサークルや話してみたいと思う人もいたのですが、初対面の方に話しに行くのはこわかったんです。「上手く会話できずに嫌われちゃうかもしれない」と思って。聴覚障害の学生もいたと思うのですが、正直ノートテイクをしている場面も実際見たことがなくて。会社に入ってからは、社内の当事者の集まりを自分で探しに行きました。変わったなぁと思います。

ーー社内の当事者の集まりとは、どのようなコミュニティですか?

谷口:「手話部」という部活に入っています。他にも「Panasonicデフ会」というのもあり、全国のパナソニックに勤める聴覚障害者が集まっているコミュニティです。聴者の方も参加していて、デフの困りごとをダイレクトに聞くことができますし、モニターやアンケートを通じて自社製品の開発に活かすこともできます。最近もデフ会のイベントがありまして、関東・関西中心に全国から50人以上集まってきました。情報保障をどうしているのか情報交換したり、手話ビギナー向けに手話を勉強しましょうみたいなコーナーがあったり、会社の経営理念方針を手話でどう表現するか議論したり。自由交流スペースもあって、そこで知り合いをいっぱい作ったり…。色んな人と知り合うことができました。聴者/デフ関係なく交流できて、すごく楽しいんですよ。

ーー困りごとの相談などもされているのですか?

谷口:もちろんします。イベントは年に1,2回くらいですが、会社のTeamsの中にデフ会というグループがあって、「こういう取り組みがあったよ」「展示会でこんな紹介があったよ」「こんなものが発売されてるよ」など、毎日何かしら更新があります。「職場での情報保障についてアドバイスください」などももちろんあります。こういうコミュニティが会社の中にあるというのは大きいですね。社内研修の動画に字幕を付けてもらうように会社に働きかけたりしてくださる方もいたり。例えばCEOの新年度の挨拶や、発表動画など、重要なお知らせに関する動画には字幕も手話通訳もついてるんですよ。聴覚障害があっても安心して働けますよというのは言いたいですね。

障害の有無に関係なく、やりたいことを追い求めることができる社会の実現に向けて

ーー谷口さんが今後、チャレンジしてみたいことってありますか?

谷口:耳がどんどん悪くなっているので、当然今後、聞こえなくなってしまう可能性もゼロではないです。どこまで今の仕事ができるのかと考えると、あまり長くないんじゃないかなとも思います。ただ、聞こえなくなっても、これから生まれてくるツールを使いながら、どこまで適応できるのかということを、できる限り頑張ってやってみて確かめたいなぁと思っています。耳が悪いからどうせこれはできない仕事だって決めつけている人がいたら、全力で否定しにいきたいなぁと思います。講演後にある参加者から質問があって、その方の会社にはデフ会のようなものがないということでした。パナソニックはこれだけいいものを持っているのなら、他の会社にそれらを展開したり、交流したり、将来的にできないかなぁと思っています。それができたら楽しそうですよね。

ーー1人が会社に対して働きかけることはなかなかハードルが高いですよね。

谷口:そうですね。会社によっては、聴覚障害者が一人だけというところもあると思います。「どうしたらいいんだろう」と悩んで、やりたい仕事なのに、それが理由で会社を辞めてしまうのは違うじゃないですか。そうなってほしくないなと思います。

ーー日々の仕事の中で谷口さんも色々なツールを活用しているとお聞きしましたが、実際使う中で思うことや感じることはありますか?

谷口:例えば音声認識って、「聴覚障害者だけが使うもの」と思われたら、ちょっと頼みにくい当事者がいるかもしれないと思います。議事録のために、外国語の通訳のためになど、焦点をぼかしてもらえるとお願いしやすいですし、もっと気軽に使いやすくなるかなと思います。私は健聴者の方に強要はしたくないんです。だから、「すべての人にとって役に立つものですよ」とわかってもらえたら嬉しいなと思います。

「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より
「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より

ーー2024年4月から民間事業者においても、合理的配慮の提供が義務化されます。当事者自身から働きかけていくことも大切になりますね。

谷口:そうですよね。健聴者の方が理解を深めるのも大事ですけど、当事者一人一人もその気持ちを持てるかということも大事かもしれないです。自分から言いにくくて悩んでいる方は、申し訳ないという気持ちや、ちょっとこわいという気持ちがあるのかもしれないと思います。まずは100%完璧な配慮を求めなくてもいいので、少し伝えてみる勇気をもってみて、1回だけもいいから、自分からこうしてほしいと伝えてみて、それに対してどんな配慮をしてもらったのかを確認してみるのもいいのかなと思います。ただ、その1回が難しいかもしれないから、ここのアドバイスがうまくできたらいいんですけどね。勇気がいるんですよね、正直。そうなった時に、聴覚障害者の当事者同士で出会える場ってすごく大事だと思います。私、つくづく思うのは、ろう学校に小さい時から行っている方々は、人と接し慣れてるなぁと思います。友達もいて、コミュニケーションもちゃんととれてるなぁと。逆に、それらができずに育つと、私と同じように悩んでしまう方がいるだろうなと思います。

「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より
「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より
「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より
「きこえ×ライフハック展2023」講演資料より

ーーたしかに、難聴者に比べてろうの方たちは、自分の意見をしっかり伝える方が多い印象があります。

谷口:ストレートに、微妙なニュアンスなく言ってくれるのはすごくいいなぁと思います。それも一つの自己主張だと思うので、「自分がこうしてほしい」ということを言い慣れてるんだろうなぁと思います。私はこれができなくて、少し濁しちゃうというか逃げてきたので、「こうしてほしい」とは最初はなかなか言いにくかったです。

ーー聴覚障害者が働くにあたって、社会に対して思うことはありますか?

谷口:ギャップはなくしたいです。「障害者雇用でしょうがなく雇っている」みたいな風潮も少なからずあるかなと感じていて。同一労働なのに、賃金や待遇が違うことに疑問を感じたり。ギャップがなくなれば嬉しいなと思います。パナソニックは障害の有無に関係なく評価制度や処遇はみんな一緒なんですよ。障害があっても同じグレードで働けるというのがもっと広まってほしいなと思います。もちろん、当然、高いお給料が欲しかったら自分が変わらなきゃいけないですし、資格を取るでもいいですし、自分の付加価値を高めないといけないですよね。

ーーかつて谷口さんが一人で悶々と悩んでいたのと同じように、一人で抱え込んでいる当事者の方もたくさんおられると思います。その方々に伝えたいことはありますか?

谷口:そういう方がいたら、助けてあげたいです。言いたいのは、「一人じゃない」ということ。聴覚言語障害センターの皆さんみたいに、サポートしてくださる方はいっぱいいますし、会社の中にも、聴覚障害がある・なし関係なく、理解してくれる方は絶対にいます。なにも恥ずかしくないし、一人一人が自分らしく、やりたいことをどんどんやっていってくださいということを一番言いたいなぁと思います。

谷口さん、貴重なお話をありがとうございました^^
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